宿泊した宿でお願いした送迎バスは、5分ほどで蔵王ロープウエーの山麓駅に到着した。
まだ動き始めて間もない時刻だと言うのに、既に大勢の客が発券窓口の前に群れていた。
多くは板やボードを抱えたスキーヤー・ボーダーで、冬場はこういった乗客が主になるそうだ。
しかしその中に、何人か手ぶらの客も混じっているから、恐らく樹氷目当ての観光客であろう。
蔵王ロープウエーの山麓駅は、標高855mの蔵王温泉スキー場「横倉ゲレンデ」に位置している。
そこから中間地点の標高1331m、樹氷高原駅までが「山麓線」と言う。
ここで乗り継いで、標高1661mの地蔵岳山頂駅に向かうのが「山頂線」で、この二路線に分かれている。
それぞれで乗車も出来るが、通しで往復するとその乗車券は2500円である。
乗り込んだゴンドラが高度を上げる程に、足元に温泉街の全貌が開け、その先に箱庭のような山形市街地が見える。
遥か遠くの山並みに目を転じれば、白く装った山塊の向こうには秀峰・月山も望まれる。
ゴンドラに揺られながら眼下に目をやると、全ての葉を落とした樹木は、静かに厳寒の訪れを待っている。
そんな木々は高度があがるほどに、その着雪が少しずつ増し、太っていく様子が窺える。
樹氷高原駅
ここのロープウエーを難しく言うと、「山麓線」は複線交走式ロープウエーという。
動かないロープにぶら下がった2台のゴンドラ(定員53人)が、ロープに牽引されて上下する物である。
簡単に言うと「井戸のつるべ」と同じ構造らしい。
一方「山頂線」は、複式単線自動循環式ゴンドラ(通称:フニテル 定員18人)と言う。
これは巾広く張られた2本のロープに、ゴンドラが多数取り付けられ、循環運転しているものだ。
山岳地の厳しい強風や風雪には、こちらの方式が適していて、安定した輸送の確保が出来るらしい。
時間当りの輸送人員を比較すると、前者は364人、後者は夏場で450人、冬場は1200人だという。
ゴンドラは凡そ7分で、中間地点の樹氷高原駅に到着する。
ここで一旦ゴンドラを下り、少し先の駅から乗換えることになる。
ここには「ユートピアゲレンデ」や「百万人ゲレンデ」が有り、ダウンヒルコースが楽しめるらしい。
ここで降りる客もあるらしいが、乗り合わせた全員は上級者なのかさらに上を目指している。
案内表示に導かれるまま、雪の積もった階段に足を取られながら進むと「山頂線」の駅が有る。
ここで日本のスキー場では最初に導入されたと言うフニテルに乗り換える。
待つ間もないほどに次々にやってくるゴンドラは、18人乗りなので乗客の滞留がほとんどない。
この方式に変更したことで、輸送力が大幅にアップし、スキー客の待ち時間を低減したらしい。
地蔵山頂駅
フニテルに乗り換え、ゲレンデを見下ろしながら暫く登ると、眼下の景色が一変した。
山の斜面には、もこもこと幾つもの雪のこぶを付けた樹木が現れ始め、それらの数は次第に増えて行く。
登るほどに、こぶは大きくなり、増大した巨大な雪の塊となって眼下に見えている。
これらは、やがて隣り合って群生する樹木と触れ合い、そこでまた更に太りながら奇怪な姿に変貌していく。
ゴンドラは、凡そ8分で、1,661mの山頂駅に到着する。
山頂駅を出ると、そこは青く晴れ渡り、雪がキラキラと眩しい一面の銀世界で、素晴らしい景観が出迎えてくれた。
吹き付ける風は半端なく強く、それが余計に空気を引き締め、寒さを一段と高めているようだ。
気温はマイナス7度、肌がたたかれたようにピリピリと痛い。
駅舎を背に、一面の雪原の中に繰り出してみる。
回りには、さまざまな形をした樹氷が、あちらにもこちらにも林立し、二つとして同じ形は見られない。
まさに雪の芸術、自然の造形、モンスター群の勢揃いである。
この世界的にも珍しい自然現象は、ここ蔵王と青森の八甲田などごく一部でしか見られない貴重なものだそうだ。
赤い頭巾をかぶったお地蔵様が半分ほど雪に埋まり、寒そうに白く凍り付いている。
この地蔵尊像は、江戸時代に遭難除けとして建立されたものらしく、台座を含めると高さは2.68mも有ると言う。
横に立ってみると丁度背丈ほどになっているので、現在このあたりの積雪が1mほどと言うことが解る。
「山頂駅」の前は、山を滑り降りる「ザンゲ坂・樹氷原コース」の起点となっている。
途中のパラダイスを経て、麓の横倉ゲレンデまで一気に滑り降りる凡そ8qのコースらしい。
コースは所々で狭く、傾斜もあり上級者向けらしいが、、変化に富んだダウンヒルが楽しめるそうだ。
山麓駅からここまで一緒に上ってきたスキーのグループも、ここから滑り降りるのだと言う。
装備を整え、手を振りながら、次々に樹氷の間に延びる雪の道を滑り降りて行った。
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