奥の細道湯けむりライン
「奥の細道湯けむりライン」
大正6(1917)年に全通した、宮城県の小牛田から山形県の新庄の間を27駅で結ぶ陸羽東線に付けられた愛称で、この沿線には数多くの温泉があることから、平成11(1999)年に公募により決定された。
沿線の駅名にも「温泉」が付いた駅が、川渡温泉、鳴子御殿湯、鳴子温泉、中山平温泉、赤倉温泉、瀬見温泉と6つもあり、こんな路線は全国でもまれで、まさに湯の香漂うローカル線である。
その中心が鳴子温泉郷で、東鳴子・川渡・馬場・中野・赤湯・湯元・中山平・鬼首・車湯などの温泉から総称される。
日本にある温泉の泉質は11ほどで、そのうちこの地には9種類があると言い、それは非常に珍しく源泉の数も400にも上るほど湯量も豊富で、多彩な湯が楽しめるのも魅力な温泉郷である。
この路線に初めて乗ったのはもうかれこれ20年以上も前の事である。
何の下調べもせず、その日の思いつきで、東鳴子(現鳴子御殿湯)駅で下車をして、ホームの広告で見た電話を頼りに宿をとった。
何と言う旅館だったか名前はもう忘れてしまったが、木造の二階建て、源泉かけ流しが自慢の宿で、使いこまれた浴槽が幾つもある、所謂昔からの湯治の宿で、閑静な旅館だったと言う記憶が残っている。
二度目の訪問はその一つ先まで足を伸ばし、鳴子温泉で下車をする。
この時の宿は、駅からは10分ほど歩く、種田山頭火ゆかりの宿、「東多賀の湯」に泊まる。
温泉街の外れにある、自家源泉の白濁のお湯が自慢の小さな宿で、東北の湯宿らしく、自炊の出来る共同スペースを備えている。
こけしの故郷・鳴子温泉
鳴子温泉の開湯は古く、「続日本紀」にその名を見ることが出来ると言うが、一方こんな伝説もこの地には伝えられている。
その昔源義経が奥州に逃れる折、この地で北の方が亀若丸を出産した。
しかしその赤子はなかなか産声をあげなかったが、この地の湯に浸けたところ、やっと産声を上げたと言う。
そんな伝説に因んで、この地を「啼子(なきこ)」と呼ぶようになり、そこから転化して「鳴子」に成ったと言われている。
湯の里らしく駅前に無料の足湯がある。温泉街にある無料の足湯4か所のうちの一つだ。
温泉街の殆どの旅館・ホテルでは日帰りの立ち寄り湯が可能だ。駅の観光センターでは、「下駄のレンタル」を行っているので、湯めぐりチケットを買って、借りた下駄をカランコロンと鳴らしながら、町を歩き、湯めぐりを楽しむのも良いだろう。
駅を出ると左右に走るのが駅前通りだ。
さほど広くはない通りは通行する車も多く、道の両側にはお菓子やグッズを売る土産物屋さんや、こけしを販売する店、食事処や、昔ながらの間口を構えた旅館などが軒を連ねている。
駅から5分ほど歩いた、山側の坂の多い湯の町通りを挟んだあたりには、大型のホテルや観光旅館が並んでいる。
そんな旅館街の一角に、地元の人をはじめ観光客にも人気の共同浴場「滝の湯」がある。
板張りの浴槽は二つあり、すこし硫黄臭のする白い湯が満たされている。一つはかなり熱い高温湯、もう一つはぬるめの湯である。
源泉が、打たせ湯として、惜しげも無く浴槽に流れ落ちているのも嬉しいサービスだ。
鳴子のこけし
温泉街はさすが鳴子こけしの故郷だけあって、いたるところで、「こけし」が出迎えてくれる。
看板は言うに及ばず、車止めからマンホールのふた、当然お土産もグッズもこけしに纏わるものばかりだ。
駅前通りを行く少し外れた先に、その名もずばりの「こけし通り」が有る。こけしを製造する工人の工房や直売店が軒を連ねる、まさにこけしの故郷を象徴する通りだ。
通りを歩くと木を削るロクロの音と、木の焦げるきな臭いにおいが辺りに漂い、その雰囲気を醸し出している。
鳴子のこけしは頭を回すとキイキイと音がする。この音が出るのは最近の工夫らしい。
構造的には、頭と胴が“はめ込み”に成っているからだが、技術的にはこれがなかなかに難しいらしい。
ロクロの回転を利用してはめ込まれた頭は、後で抜けると言う事は無いと言う。
胴は中央部分がやや細くくびれているが、全体的にはどっしりと安定感のある形が特徴だ。
その胴の模様は菊が描かれたものが多く、一般的には重ね菊、菱菊と言われる描彩がされている。
鳴子こけしの歴史は古く、幕末の頃にはお土産としてこけしが売られていた記録が残されていると言う。
手元にある「伝統こけし工人手帳(宮城物産・平成14年)」で調べてみると、鳴子系のこけし工人は70名余りを数へ、その多くがこの鳴子温泉を中心にその伝統の技を受け継いでいる。鳴子のこけし生産量は日本一、まさにこけしの故郷に相応しい。
温泉街から少し離れたところには、松尾芭蕉の「奥の細道」で知られる尿前の関跡がある。
又、そこからさほど遠く無い場所には、戦前のこけしコレクター深沢要を記念する「日本こけし館」がある。
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