アヤナ リゾート & スパ

 

■ ラヤ・ウルワツ通り

 

 ようやく一連の手続きを終え空港の外に出ると、今は乾季らしいが、湿気の多そうな夜気が肌にまとわり付いてくる。

恐らく気温は25度を越えているのであろう、日本で言う熱帯夜のような状況だ。

余り広くはない空港の駐車場には、日付が変わった深夜にも関わらず人と車がごった返していて、余計に熱く感じる。

 

出迎えの現地ガイドの中からやっと旅行会社のプラカードを持つ男を見つけ、滞在先のホテル名を告げる。

その男は大きな声を出して少し先にいる同じ柄の服を着た男を呼んだ。走り寄った男が、「ホテルはアヤナですか?」と流暢な日本語で聞いてきたので、「そうだ」と答えると「付いて来て」と先を歩き出した。

 

「アヤナ リゾート&スパ」までは20分ほどかかるという。

出迎えた男に導かれるまま車に乗ると、助手席に座った男が、振り返りざま笑顔で自己紹介を始めた。

多少の訛りは有るものの、耳触りの無い、聞き取りやすい日本語である。

 

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ラヤ・ウルワツ通りは余り明るくは無いが、それでも沢山の車とバイクが行交い深夜にも関わらず込み合っていた。

この時間でも移動する旅行者が多い性か、道の両側には、何かを商う店が切れ目もなくまだ灯りを灯して営業している。

この頃には、始めて見る異国の風景を楽しむ余裕も生れていた。

空港から遠ざかるにつれラヤ・ウルワツ通りの両側は、店が少なくなり、しだいに暗くなる。

賑やかだった本通りを右に折れると、やがて道は緩やかな上りに変わり、沿道の商店は途切れ、周りは一段と暗くなる。

 

道すがら、車のヘッドライトが路傍でエサを漁る犬を浮かび上がらせるが、その数は一頭や二頭ではない。

車がすぐ脇を通っても、彼らは逃げようとはしないで地面に鼻を擦り付け、ひたすら餌を捜し続けている様子だ。

何と野良犬の多いところだ、と思いながら暗闇を注視していると、そんな犬に混じって、時折大きな牛が同じように路傍でエサを漁っている所に出会したりもする。

 

 

■ アヤナの朝

 

「アヤナ リゾート&スパ」の朝は、庭を流れる水音と、小鳥たちの賑やかなさえずりで始まった。

分厚いカーテンの隙間から明るい朝の光が、鋭く細い筋となって差し込んでいて、どうやら外は良い天気らしい。

昨日の慣れない7時間余りのフライトの疲れが多少残っているのか、もう少しこのままベッドでゆっくりしたい気分である。

しかし時計は既に8時を大きく過ぎていて、そろそろ起き出し、朝の食事に行かなければならない時刻だ。

 

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カーテンを勢いよく開け放つと眩しいほどの陽光が部屋に差し込んできた。

目の前に広がる庭には、せせらぎが流れ、赤や薄ピンクの花々を付けた大きな亜熱帯植物が一面に茂っている。

風で揺れるそんな木々の間を小鳥たちは忙しそうに飛び回り、頻りにさえずりながら朝食探しに余念がないようだ。

そんな庭越しに遠くに目を遣ると、そこには真っ青な海が広がっている。キラキラと輝くインド洋だ。

 

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朝食は、「Sami Sami Restaurant」での多国籍料理、バイキングだ。

木々の植わる広大な庭の一角に、草葺の東屋が点在し、その中に何組かのテーブルが置かれている。

もう直ぐ10時になろうとするのに、まだ多くの人達がテーブルを囲んで食事をしていて、それはガムランの生音と小鳥たちのさえずりをBGMに、ゆったりとブランチを楽しんでいる風だ。

 

さすがリゾートホテルらしく、見れば、皆随分とリラックスした服装をしている。

男たちは殆どが、Tシャツに短パン、サンダル履きで、女性は大きく肌を露出させ、いかにも涼しげなワンピースか、これまたTシャツに短パン、サンダル履きが圧倒的に多い。

 

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 初めての外国旅行とは言え、余りにも違いすぎる服装に違和を感じながらも、憶していても仕方が無いので、思い思いに好きなものを持ち寄り、ようやく家族揃ってテーブルを囲み、食事を楽しむ。

話題の中心は何と言っても、到着早々まんまと悪質ポーターにやられたこと、暗闇に餌を漁り群れる犬や牛、テロへの厳重な備えなど、昨夜初めて目にした数々の異国の珍しい光景である。

 

 

■ テロへの恐怖

 

昨夜と言うか今朝というのか、日付が変わり午前1時を過ぎて行ったチェックインは、ガイドが全て済ませてくれた。

その後、部屋に入り荷物も放り投げたまま、手早くシャワーを済ませた。

冷蔵庫を漁ると“ビンタン・ビール”があったのでそれを一気に飲み、ベッドに入ったところまでは覚えている。

それから先の記憶は残ってはいないのだから、直ぐに眠りに落ちてしまったのだろう。

 

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 ホテルに向かう沿道では、大きな門構えのリゾートホテルを時折見かけていた。

魅惑の島として人気の観光地・バリを象徴するような有名なホテルが、まだ赤々と灯りを灯しながら、その入口を何人もの男たち(恐らくガードマンであろう)で門を固め、そんな時間でもまだ旅人を待っているようであった。

 

やがて順調に飛ばしてきた車のスピードが落ちた。どうやらここがホテルの入口らしい。

前方を見ると、両側から明かりを照らされたその道路には、バリケードが設けられ一本のポールが道を塞いでいた。

そこには制服の違う大柄な男が3〜4人詰めているが、どうやら警察官とガードマンのようだ。

その中の一人、ガードマンらしき男が、車の中を覗き込み、その後車の後ろに回りトランクを丹念に調べていたし、更に別の男は、車の底を調べていたようだ。

 

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ガードマンが異常の無いことを、バリケードの横に立っている男に告げると、男はポールを固定するロープを緩めた。

ポールが勢いよく跳ね上がり、車が再び動き始めると、バリケード脇で直立する警察官がこちらに挙手の礼を取っていた。

その足元には既に役目を終える時間になっているのか、シェパードが大きな黒い塊になって寝っていた。

 

これらはとてもリゾート地にはなくそぐわない光景だが、国によっては絶えずテロへの恐怖もあるようだ。

治安の良い日本では考えられない事で、平和ボケのわが身には違和感しか覚えないが、これが外国の現状なのかとこんな様子にも妙に納得して遅いブランチで話が弾むので有る。

 

 

 



 

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