これより箱根路

 

 東海道は本町辺りで再び国道1号線に合流し、いよいよ箱根八里、天下の険を目指すことになる。

この辺りの標高はまだ10m程度で、元箱根が775mと言うから、標高差が700mを越える峠道を上ることになる。

その箱根の宿までは四里八町(およそ17km)の道のりだ。

 

道はJR線を潜る辺りでやや北に進路を変えながら、板橋地区に入ってきた。

上方口見附跡を見ると、その先から緩やかに上り始めるが、歩いていてそれを実感するほどでもない。

新幹線の下で国道を右に外れ、旧道に入ると、標高はやっと13m余りである。

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

 小田原の旧東海道沿いには、古い趣のある商家も僅かながら残されている。

やや古そうな平屋平入の民家も所々に残されていて、中にはこの地方の特徴的な「出桁造り」で構えた家もある。

この造りは軒先を豪華に見せるため主に商家などでは用いられた。

一方で昔は一般の百姓家には造ることを許さなかったと言う。

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

 通りに黒いなまこ壁を張り巡らした、一風変わった店舗兼住宅が建っていた。

建物はこの地で3代100年に渡って醤油製造に携わってきた内野邸のもので、明治36年に建てられている。

全体を黒っぽくまとめた重厚な土蔵風の造りで、この周辺では異彩を放っている。

正面には石造りアーチの店舗入り口が設けられている。

一階と二階の窓の格子もそれぞれ趣が違い、所々に和洋の様式が混在しているのが面白い建物だ。

内部は有料で公開されている。

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

これより箱根路

これより箱根路

これより箱根路

 

 上板橋で箱根登山鉄道のガードを潜り、再び国道1号線に合流し、暫くはそれらに挟まれるように歩道を進む。

左手に早川が近づき、その奥に西湘バイパスを行く車の流れが見える。

正面には、箱根の山が低く垂れこめた灰色の雲の中に霞んでいる。

日差しは殆ど無く、夕暮れ時のようにどんよりと暗く陰り、午後から雨の予報が現実的になってきた。

 


 

かまぼこの里

 

小田原・厚木道路を越えると前方両側に、レストランや地ビールを販売するお店が幾つも見えてきた。

そんな中に、老舗のかまぼこ屋「鈴廣かまぼこの里」の大きな建物も右側に建っている。

駐車場の誘導員の「休んでいって下さい」との声に誘われるまま、ここで少し休ませて貰う。

店内は随分な賑わいで、買い物客でごった返し、試食ができるコーナーには、人の群れが出来ていた。

 

かまぼこの里

かまぼこの里

かまぼこの里

 

かまぼこの里

かまぼこの里

かまぼこの里

 

かまぼこの里

かまぼこの里

かまぼこの里


 

ここでは買い物だけではなく食事処も併設されていて、地ビールや地産地消のバイキングも楽しめるようだ。

またかまぼこ・ちくわ造りの体験教室も開かれると言う。

この地は江戸時代の後期に考案された板かまぼこの産地として全国的にも知られたところだ。

創業100年を超える老舗も少なくなく、そんな店が市内のいたるところに、幾つも店舗を構えている。

 

この辺りでは、箱根登山鉄道も国道1号線と併走していて、その風祭駅がこの店の裏手に併設されている。

同鉄道は、東海道線の小田原から、強羅を結ぶ鉄道で、箱根観光の色彩が強い鉄道である。

途中の箱根湯本辺りまでは、ほぼ東海道と同じルートを行く。

 

 

小田原温泉 八里

 

その先の街道脇に、「小田原温泉」の黄色い看板が見える。

一見するとただの民家のようで、車なら気付かず通り過ぎてしまいそうなぐらい目立たない建物だ。

「温泉 八里」と書かれたガラス戸を恐る恐る開けると、フロントにはおばちゃんが一人店番をしていた。

 

「入れる?」と問うと、廊下の奥を覗き込みながら「今二人だけ」と言い、料金は「1時間500円」と言う。

「長湯をするお客さんがいるからね」と話好きなのか、話しかけてくれる。

「おじいちゃんが掘り当てたの。源泉は川の向こう。かけ流しだよ。まず一杯源泉を飲んでみて」などという。

この後もひとしきり入浴時の注意や、アトピーが三か月ほど通い詰めて治った話などを聞かせてくれる。

 

小田原温泉 八里

小田原温泉 八里

小田原温泉 八里

 

小田原温泉 八里

小田原温泉 八里

小田原温泉 八里

 

 浴室前の廊下にスリッパが二足脱ぎ揃えられていた。

「スリッパは廊下に脱いで」と言っていたから、番台からこれを見て入浴客を把握しているようだ。

広くはない脱衣所で服を脱ぎ、タイル張りの浴室に入ると、観光客ではなく、地元の人が二人いた。

先客は、かなり長いことつかっているのか、肌が桜鯛のようにあかく染まっている。

 

四五人も入ればいっぱいになってしまいそうな浴槽が窓際に有り、湯が溢れている。

「ここに入れ」と、先客が隅によって空けてくれた湯船に入る。

無色透明で、刺激のない柔らかな感じのお湯は、アルカリ性単純泉で、温度は37度位とややぬるめだ。

これならゆっくり湯に浸かれるので、長湯をする気持ちが良く解るし、時間制限も致し方ない。

疲れた身体には丁度良くて、これで足の疲れも取れそうだ。

 

 

三枚橋と湯本温泉

 

東海道は左に折れ、早川に架かる三枚橋を渡り箱根観光地の一つ、湯本温泉に入ってきた。

右手前方の少し高いところに、箱根登山鉄道の箱根湯本駅が見えている。

その前を流れる川には赤い欄干の橋が架かり、結ばれた左手には大きな観光ホテルなどの建物が犇めいている。

町中を貫く県道732号は車の流れも多く、如何にも観光地らしい賑わいを見せている。

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

遥か前方は箱根の山々の連なりであろうか、灰色の雲に抱かれた深緑の山塊が幾つも重なって見える。

空は、今にも雨粒を落としそうな雰囲気ながら、どうにか持ちこたえている。

そんな道路際では、「これより旧東海道 箱根関所まで15K」の看板が、箱根の懐入りを出迎えている。

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

 

三枚橋と湯本温泉

三枚橋と湯本温泉

正眼寺

 

三枚橋の近くの目立たない場所に「旧極楽橋」の記念碑が有った。

昔早川の幅はとても広く、幾筋にも分かれ、大きな中洲が二つあり、橋は中洲を結んで三枚架かっていた。

小田原から登ってくると手前の橋が地獄橋、真ん中が極楽橋、三つ目を三昧橋と呼んでいた。

三枚橋と言う地名(橋の名)は、かつてこの地に三枚の橋が架かっていたことがその謂れだという。

 

 

早雲寺と極楽橋

 

当時はこの三つの橋を渡った対岸には、領主の菩提寺・早雲寺の総門が有った。

その為どんな重罪人も、この三つの橋を渡り切り、その門内に逃げ込めば罪を免れる事が出来た。

 

しかし一番手前の橋で捕まってしまえば、地獄行きの罪の裁きが待ち構えている。

運良く二つ目の橋を渡れば、役人もお目こぼしをしていたので、極楽の名が橋に付いたと言われている。

更に三つ目の橋を渡り切れば、仏にすがり帰依し、仏三昧に生きろと言う意味が込められていたらしい。

 

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

 

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

 

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

 

その早雲寺は、三枚橋からは10分ほど登ると見えてくる。

北条早雲の遺命により、その子氏綱によって建立された北条五代の菩提寺で、その奥の墓苑の中に五代の墓が有る。

山門を入ると、広大な伽藍には鬱蒼と木立が茂り、右手に茅葺入母屋風屋根の鐘楼が、正面に本堂を構えている。

天正年間に豊臣秀吉の小田原攻めで、焼き尽くされた関東屈指の禅刹が、復興されるのは江戸寛永年間のことだ。

現在の建物の多くはその頃のものだそうだ。

 

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

 

早雲寺と極楽橋

早雲寺と極楽橋

正眼寺

 

 そこからさらに数百メートル湯坂と言われる坂を上ると、左手に臨済宗のお寺正眼寺が有る。

鎌倉前期にはすでに存在していたと言う地元では知られた地蔵信仰の古刹だ。

仇討ちで有名な曽我五郎・十郎兄弟の所縁の寺で、境内には縁者達が奉納した供養塔が立てられている。

本堂の裏には、曽我堂が建っている。

境内には、土地の俳人が建立した松尾芭蕉の「山路来てなにやらゆかし菫草」の句碑もある。

 

正眼寺

正眼寺

正眼寺

 

正眼寺

正眼寺

正眼寺

 

 その先に旧湯本茶屋村、更に22番目の一里塚跡などの説明板があり、町の賑わいもそろそろ尽きてきた。

それでもまだ、高級そうなホテルや旅館が、三々五々豊かな森の中に点在し、湯本温泉の奥深さを見せつけている。

この先辺りからは、いよいよ箱根東坂の本格的な登り道、石畳道が待ち構えている。

 



 

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